軟骨無形成症を知る

医療的側面に加え、社会的側面で軟骨無形成症を俯瞰してまいります。

「軟骨無形成症」と聞くと、まず「身長が低いこと」や「骨の病気」を思い浮かべる方が多いかもしれません。軟骨無形成症(Achondroplasia)は、FGFR3という遺伝子の変化によって骨の成長の仕組みに特徴が生じる、代表的な骨系統疾患のひとつです。[1]

しかし、軟骨無形成症を理解するために必要なのは、医学的な特徴だけではありません。

学校、仕事、移動、買い物、スポーツ、文化活動、人とのコミュニケーション。

私たちの日常には、身体の大きさや特徴を前提としてつくられた環境が数多くあります。

だからこそ私たちは、軟骨無形成症を

「治療すべき身体」だけではなく、
「社会の中でともに生きる一人の人」として考えること
が大切だと考えています。


軟骨無形成症とは

軟骨無形成症は、骨の長さ方向への成長に関係する「軟骨内骨化」に特徴が生じる遺伝性疾患です。[1]

特に腕や脚の長さに特徴があり、成人身長は一般的な身長より低くなります。また、頭蓋骨や脊椎などにも特徴が現れることがあります。[1]

軟骨無形成症は、医学的には「骨系統疾患」に分類されます。[1]

国際的な専門家によるコンセンサスでは、軟骨無形成症は生涯を通じて、医学的・機能的・心理社会的な課題が生じる可能性のある疾患とされています。[1]

一方で、身体的特徴や健康上の課題には個人差があります。[1]

そのため、乳幼児期、学童期、思春期、成人期というライフステージごとに、必要な医療や支援を考えていくことが重要です。[1]


医学的な課題と向き合う

軟骨無形成症では、成長や骨格の特徴に関連して、さまざまな医学的課題が生じることがあります。[1]

例えば、次のようなものがあります。

  • 睡眠時呼吸障害
  • 大後頭孔狭窄などによる神経学的な問題
  • 中耳炎や聴力の問題
  • 脊柱管狭窄症
  • 脊柱や下肢に関する問題
  • 疼痛や運動機能の問題

特に乳幼児期には、呼吸や神経系に関する合併症について適切な評価とフォローアップが重要です。成人期にも、脊柱管狭窄症、睡眠時無呼吸、疼痛、運動機能などについて継続的な健康管理が必要になる場合があります。[1]

そのため、軟骨無形成症の医療では、特定の診療科だけではなく、小児科、整形外科、耳鼻咽喉科、脳神経外科、呼吸器領域、リハビリテーション、心理社会的支援など、多職種による長期的なケアが重要とされています。[1]

医学の進歩によって、現在では軟骨無形成症に対する新しい治療の選択肢も生まれています。

しかし、私たちはここで、もう一つの重要な問いを考えたいと思います。

「医療が進歩すれば、それだけで暮らしやすい社会になるのでしょうか?」


「身体の特徴」と「社会の中での困難」は同じではない

軟骨無形成症のある人には、身体の大きさや骨格の特徴によって、日常生活の中で困難を感じる場面があります。

例

  • 高い場所に手が届きにくい
  • 一般的な高さのカウンターを使いにくい
  • 公共施設の設備を利用しにくい
  • 一般的なサイズの衣服や靴が合いにくい
  • 長距離の移動に負担を感じる
  • スポーツ施設や用具をそのままでは使いにくい

これらの具体的な生活上の課題については、国際コンセンサスでも、日常生活における身体機能、移動、セルフケア、教育、就労、社会参加などを含めて支援を考える必要性が示されています。[1]

しかし、ここで大切なのは、「本人に問題がある」と考えるだけでは、解決できない問題があるということです。

例えば、

・スイッチの位置を少し下げる/踏み台を用意する。/家具や設備の高さを工夫する。

・公共施設の案内方法を変える。

・スポーツのルールや用具を工夫する。

こうした環境側の工夫によって、「できないこと」が「できること」に変わる場合があります。

これは、障がいを本人の身体的特徴だけではなく、**人と環境との関係から捉える「社会モデル」**という考え方につながります。[2]


「医学モデル」から「社会との関係」へ

障害を考える際、国際的には「医学モデル」だけではなく、「社会モデル」や人権に基づく考え方が重視されています。[2]

医学的な視点では、「身体にどのような特徴や機能上の課題があるのか」を考えます。

一方、社会的な視点では、

「その身体的特徴によって、社会の中でどのようなバリアが生まれているのか」を考えます。

この二つは、対立するものではありません。

適切な医療は必要です。

同時に、社会の側にも変えられるものがあります。

国連の「障害者の権利に関する条約(Convention on the Rights of Persons with Disabilities)」は、障害のある人を権利の主体として捉え、社会への完全かつ効果的な参加と包摂を重要な原則として位置づけています。[2]

また、第19条では地域社会で生活し、地域社会に包摂される権利、第30条では文化、レクリエーション、余暇、スポーツへの参加について定めています。[2][3]

日本も2007年に同条約に署名し、2014年に批准しています。[4]


本当に大きなバリアは「身長」だけではない

軟骨無形成症のある人が社会の中で経験する困難は、物理的なものだけではありません。

例えば、

「見た目が違う」「子どもに見られる」「必要以上に注目される」

「できないと決めつけられる」「本人ではなく、周囲の人が人生を決めようとする」

といった経験があります。

国際的な軟骨無形成症コンセンサスでも、社会的スティグマ、心理社会的課題、自己認識、学校生活、社会参加などへの配慮が重要であることが示されています。[1]

また、軟骨無形成症のある人に対する社会的な認識や周囲からの扱いは、本人の心理的・社会的な経験に影響し得ることが研究でも報告されています。[5]

だからこそ必要なのは、「本人が社会に合わせること」だけではありません。

社会そのものが、多様な身体を自然に受け入れられるようになること。

それもインクルージョンです。


海外では「当事者が社会を変える」という取り組みも

海外では、低身長の人々によるコミュニティが、医療や家族支援だけではなく、社会のあり方そのものについて声を上げています。

米国の Little People of America(LPA) は、低身長の人々とその家族を支援する団体として長年活動しています。[6]

LPAでは現在、**Inclusion, Diversity, Equity, and Accessibility(IDEA)**を重要なテーマとして掲げています。[7]

また、Inclusion Committeeを設け、次の重要な価値として示しています。[8]

  • Respect
  • Intersectionality
  • Belonging
  • Accountability
  • Disability Community Connections

こうした取り組みは、

「低身長の人を社会に適応させる」

という一方向の考え方だけではなく、

「さまざまな身体や背景を持つ人が、ともに参加できる社会をつくる」

という方向へ、当事者コミュニティ自身が活動領域を広げている一例といえます。


医療とインクルージョンは、どちらも必要

私たちは、医学と社会を対立させる必要はないと考えています。

健康上の問題があれば、適切な診断と治療が必要です。

新しい治療法が生まれれば、それを必要とする人に適切な情報が届くことも重要です。

一方で、医療だけでは解決できない問題もあります。

学校。仕事。住宅。公共交通機関。スポーツ。衣服。文化。

そして、人々の「まなざし」。これらは社会の側にある課題です。

2022年の国際コンセンサスでは、軟骨無形成症への対応について、医学的管理だけではなく、心理社会的支援、家族支援、教育、就労への移行、社会的スティグマ、社会参加などを含めて、ライフステージ全体を考えることが示されています。[1]

つまり、「健康を守ること」と「社会で生きること」は、どちらも大切なのです。


スポーツは「参加」をつくる

Little Inclusive Japanがスポーツを大切にする理由も、ここにあります。

スポーツは、単に身体を動かす活動ではありません。

「一緒にやる」ことができる場所です。

年齢も、身長も、障害の有無も異なる人たちが同じ場所に集まり、ボールを追い、競い、応援し、笑う。

そこには、医療機関だけでは生まれにくい「社会との接点」があります。

国連障害者権利条約第30条では、障害のある人が他の人と平等にスポーツへ参加できるようにすること、一般のスポーツ活動への参加を促進すること、障害者スポーツやレクリエーションへの参加機会を確保することなどが示されています。[3]

また、軟骨無形成症の国際コンセンサスでも、身体活動やスポーツについて、本人の能力や健康状態に応じて参加を促すことが重要とされています。[1]

私たちが目指すのは、

「特別な人のためだけのスポーツ」ではなく、
「誰もが参加できるスポーツ」

必要であれば、ルールを変える。用具を変える。環境を変える。一緒に楽しむ方法を考える。

それもインクルージョンのひとつです。


「本人のため」から「ともにつくる」へ

インクルーシブな社会をつくるうえで、もう一つ大切なのは、当事者自身の声です。

「何が必要なのか」「何を変えたいのか」「どんな社会で暮らしたいのか」

それを最もよく知っているのは、当事者自身かもしれません。

だからこそ、当事者は「支援される側」にとどまるのではなく、

社会を一緒につくる側であることが大切です。

国連障害者権利条約は、障害のある人が政策や意思決定に参加すること、そして障害のある人を代表する団体と協議し、意思決定に積極的に関与してもらうことを重要な原則として位置づけています。[2]

海外の当事者団体でも、当事者の多様な声を組織運営や社会への提言に反映する取り組みが進められています。[7][8]


一人ひとりの違いを「特別なもの」として隔てるのではなく、

違いがあることを前提に、ともに生きられる社会へ。

それが、Little Inclusive Japanが考える軟骨無形成症を取り巻く「インクルージョン」です。

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参考文献・関連情報

特に重要な3つの出典

[1] 国際コンセンサス
International Consensus Statement – Nature Reviews Endocrinology

[2] 国連・障害者権利条約
UN Convention on the Rights of Persons with Disabilities

[3] 国連・スポーツへの参加(第30条)
Article 30 – Participation in cultural life, recreation, leisure and sport

番号文献・資料本文との対応
[1]Savarirayan R, et al. International Consensus Statement on the diagnosis, multidisciplinary management and lifelong care of individuals with achondroplasia. Nature Reviews Endocrinology. 2022;18:173–189.軟骨無形成症の原因・身体的特徴、合併症、ライフステージごとの管理、心理社会的課題、社会参加、スポーツ等、本文の医学的説明の中心的根拠
[2]United Nations. Convention on the Rights of Persons with Disabilities.障害を権利・社会参加の観点から捉えること、社会への完全な参加・包摂、当事者参加等の根拠
[3]United Nations. Article 30 – Participation in cultural life, recreation, leisure and sport.スポーツ、レクリエーション、文化活動への平等な参加についての記述の根拠
[4]外務省「障害者の権利に関する条約」日本の署名・批准に関する記述
[5]Ireland PJ, et al. Achondroplasia: psychological and social impact.軟骨無形成症における心理社会的側面、社会的経験に関する補足的根拠
[6]Little People of America (LPA)米国における低身長者・家族のコミュニティ活動の紹介
[7]Little People of America. Inclusion, Diversity, Equity, and Accessibility.LPAにおけるIDEAへの取り組み
[8]Little People of America. Inclusion Committee.Respect、Intersectionality、Belonging等を掲げる当事者主体のインクルージョン活動